- 2023.02.09 Thu 11:22
利他学会議:一員であるということ 2-DAYオンラインカンファレンス
©️ Naoki Ishikawa
理工系大学のなかの人文社会系の研究拠点
未来の人類研究センターは、2020年2月に、理工系大学のなかの人文社会系の研究拠点として創設されました。
コロナ禍でいっそう注目されることになった「利他」を研究テーマにかかげ、
このテーマがもつ豊かな広がりに導かれるようにして、
理工系の最先端の研究と人文社会系の本質にせまる問い、
さらには野生の思考とでもいうべき現場の知を横断しながら、
人間・社会・科学技術のあるべき姿をめぐって、研究をすすめてまいりました。
その研究成果を公開し、また「利他」について広く議論する場を設けるために、
昨年、一昨年に続き、2日間のオンラインカンファレンス「利他学会議vol.3」を開催します。
センターにとって、この一年は本格的な対面での活動が始まった一年でした。
「利他は言葉で定義しようとすると消えてしまう。利他は具体的な行為の中にしかない」。
オンラインでの活動を余儀なくされた二年間、呪文のように唱えていたこの言葉を、
さまざまな具体例やフィールドワークを通じて再確認し、深めた一年でした。
今回のサブタイトル「一員であるということ」も、
今年ご縁があった八丈島の皆さんにいただいた言葉です。
利他とは結局一員であるということではないか、という島の方の一言が、
多くの流人を受け入れてきた「情の島」では、ごく自然なことのように聞こえました。
この言葉を傍におきつつ、利他をめぐる議論を深めてみたいと思いました。
イベントはテーマごとに4つの分科会から構成されます。
それぞれの分科会には、外部からのゲスト2名とセンターのメンバー数名が出演します。
さらに各分科会のあとには、分科会に参加しなかった
センターのメンバーが語り合う「ちゃぶ台トーク」が続きます。
分科会やちゃぶ台トークでの議論が積み重なることによって、
最後にはどんな利他の風景が見えてくるのでしょうか。
対話や雑談のなかから生まれる触発のライブ感を、お楽しみください。
2023.3.11(土)-12(日)
対象:一般、本学教職員、学生
定員:2,800名(各分科会ごと)
開催形式:ウェビナーによるオンライン開催(要事前登録)
参加費:無料(要事前申込み)
主催:東京工業大学 科学技術創成研究院 未来の人類研究センター
参加方法
○ウェビナー視聴方法:利他学会議中に開催される4つの分科会+ちゃぶ台トークのうち、視聴ご希望のセッションごとにお申し込みいただく必要があります。下記の各セッションに記載されているリンクからウェビナー登録画面に飛び、必要事項を記入してお申し込みください。
分科会1+ちゃぶ台トーク ウェビナー登録
分科会2+ちゃぶ台トーク ウェビナー登録
分科会3+ちゃぶ台トーク ウェビナー登録
分科会4+ちゃぶ台トーク ウェビナー登録
*「ちゃぶ台トーク」・・・分科会に参加しなかったメンバーが分科会終了後に繰り広げる雑談トーク。分科会の議論によって活性化された頭の中身を互いにぶつけあいます。
スケジュール
分科会1土地×記憶
- #遺構・遺物
- #歴史
今年は関東大震災から100年。蔵前にあった東京工業大学の前身・東京高等工業学校も
壊滅的な被害を受け、大岡山に移転してきました。震災や戦争といった混乱を越えて
語りかけるモノのはたらきについて、3月11日に考えます。
Guest
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広瀬 茂久さん
東京工業大学博物館 資史料館部門長 特命教授
1947年富山県生まれ。黒部川下流の農村で育ち、東京工業大学の化学科で生物化学を専攻した後、米国のVanderbilt大学医学部で研究員を3年間、帰国後は筑波大学で5年間、血圧調節機構に関する研究に従事。筑波大で遺伝子実験センターの立ち上げに関わったのを皮切りに、東工大に移ってからは生命理工学部の創設とそれに付随する研究施設の設置に尽力。130年史の編集委員を務めた関係で、2013年の定年後は東工大の資史料館部門の立ち上げと公文書室の設置・運営を担当。
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福間 良明さん
立命館大学 産業社会学部 教授
1969年、熊本市生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。専門は歴史社会学・メディア史。「戦争の記憶」の戦後史とノン・エリート層の教養文化史が、近年の主な研究テーマ。著書に『「働く青年」と教養の戦後史――「人生雑誌」と読者のゆくえ』(筑摩選書、2017年、サントリー学芸賞受賞)、『戦後日本、記憶の力学――「継承という断絶」と無難さの政治学』(作品社、2020年)、『司馬遼太郎の時代――歴史と大衆教養主義』(中公新書、2022年)など。
分科会2推し×デジタル
- #メタバース
- #聖性
メタバースやWeb3といった技術によって、人/キャラクターどうしの新たなインタラクションや、これまでにないファンダムカルチャーの形が生まれつつあります。そこに生まれる利他とはどのようなものなのでしょうか。
Guest
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長谷川 晶一さん
東京工業大学 科学技術創成研究院 准教授
1993年東工大入学、IVRC参加とVR制作(力触覚レンダリング担当)を開始。96年研究室配属、糸を用いたハプティックインタフェースSPIDARと出会い力触覚レンダリングと物理エンジンの研究を開始。97年SIGGRAPH初参加。99年知能システム科学専攻修士修了。2000年東工大助手。2004年バーチャルな生き物の研究を開始。2006年9月博士(工学)。2007年電気通信大学知能機械科、2010年東工大精密工学研究所准教授。EuroHaptics2004、EuroGraphics2004 Best Paper Awardなど受賞。 IVRC(Interverse Virtual Reality Challenge)実行委員。VR学会大会では2019年にプログラム委員長、2022年に幹事を担当。2021年12月にメタバースVR Chatに入り衝撃を受けつつ現在に至る。
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柳澤 田実さん
関西学院大学 神学部 准教授
1973年ニューヨーク生まれ。専門は哲学・キリスト教思想。博士(学術)。関西学院大学神学部准教授。東京大学21世紀COE研究員、南山大学人文学部准教授を経て、現職。編著書に『ディスポジション──哲学、倫理、生態心理学からアート、建築まで、領域横断的に世界を捉える方法の創出に向けて』(現代企画室、2008)、2017年にThe New School for Social Researchの心理学研究室に留学し、以降Moral Foundation Theoryに基づく質問紙調査を日米で行いながら、宗教などの文化的背景とマインドセットとの関係について、何かを神聖視する心理に注目しながら研究している。
分科会3自然×アナキズム
- #宇宙生物学
- #相互扶助
全体の計画も制御もないのに、ある生物の活動と別の生物の活動が歯車のように噛みあっていく。宇宙のことわりを生きるとはどういうことなのか?自由意志を超えたところにある相互扶助のあり方について考えます。
Guest
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藤島 皓介さん
東京工業大学 地球生命研究所 准教授
1982年、東京都生まれ、幼少時をイギリスで過ごす。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2009年に同大学大学院政策・メディア研究科博士課程を早期修了。自ら地球外生命探査を行うべく宇宙飛行士になることに憧れ、2008年と2022年に宇宙飛行士選抜試験を受ける。2011年よりNASA エイムズ研究センター研究員、2016年に帰国しELSIで研究員などを経て、2020年10月より現職。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任准教授を兼任。専門は宇宙生物学と合成生物学。生命の起源と進化、地球外生命探査、火星での生存圏に関連した研究に従事している。過去にはコズミックフロント(NHK BSプレミアム)、又吉直樹のヘウレーカ!(NHK Eテレ)などに出演。
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栗原 康さん
アナキズム研究
1979年埼玉うまれ。東北芸術工科大学非常勤講師。アナキズム研究。著書に『大杉栄伝』(角川ソフィア文庫)、『村に火をつけ、白痴になれ』(岩波現代文庫)、『死してなお踊れ』(河出文庫)、『はたらかないで、たらふく食べたい』(ちくま文庫)、『サボる哲学』(NHK新書)、『奨学金なんて怖くない』(新評論)など。河内音頭、長渕剛、「麦とホップ〈黒〉」が好き。
分科会4遊×学
- #公園
- #寄付
モノの物理的なデザインや仕組みの設計によって、人のふるまいや経験は大きく変わります。学びのなかに遊びがあり、遊びのなかに学びがある。そんな「ともに楽しむ仕掛け」の作り方について考えます。
Guest
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桂 大介さん
一般社団法人 「新しい贈与論」代表理事
1985年生まれ。早稲田大学在学中の2006年に株式会社リブセンスを共同創業し、2012年に東証一部(現東証プライム)へ史上最年少で上場。その後は非営利と営利とを問わず寄付活動をはじめ、2019年から推薦や投票によって寄付先を決定する共同贈与コミュニティ新しい贈与論を運営。共同性や偶然性によって導かれる、ままならない寄付を設計・実践している。
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会田 大也さん
ミュージアムエデュケーター
1976年生。ミュージアム・エデュケーター。東京造形大学、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]修了。ミュージアムにおけるリテラシー教育や美術教育、地域プロジェクト、企業における人材開発等の分野で、ワークショップやファシリテーションの手法を用いて「学校の外の教育」を実践してきた。一連の担当企画にてキッズデザイン大賞や、文化庁メディア芸術祭、グッドデザイン賞などを受賞。 東京大学大学院GCL特任助教、あいちトリエンナーレキュレーター(ラーニング)などを経て、2019年より山口情報芸術センター[YCAM]学芸普及課長。
未来の人類研究センターメンバー
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伊藤 亜紗
教授、芸術、センター長
利他に関してよく出る話題に「電車でお年寄りに席をゆずるべきか迷う」があります。確かに、せっかくゆずったのに座ってもらえないと、気を悪くしたかなと不安になるのも分かります。でも、利他的な社会にとって一番重要なのは、「受け取らない自由」ではないかと思います。『ぼけと利他』の共著者である村瀨孝生さんが教えてくれたのは、こちらの目論見にのってくださらないお年寄りがいることの、風通しのよさでした。受け取られようが受け取られまいが、自分にその気があるなら気前良く与える。そうやってもれ出させたものを、必要な人が必要なだけ受け取る。そんな関係に利他が宿るように思います。
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北村 匡平
准教授、表象文化論、利他プロジェクトリーダー
利他の研究にたずさわって2年目、コロナ社会の中で少しずつフィールドワークに行けるようになりました。遊具を媒介にした子供のコミュニケーションを観察するために公園や幼稚園に訪れるなかで、ぼくは人間の視点よりも、空間・環境(アーキテクチャー)のことを考えてきたように思います。われわれの生活は人間だけで営まれているものではありません。自然や動物、人工物などさまざまな生命やモノとのネットワークの中で生きています。利他を「与え手」から「受け手」へと届けられる贈与のモデルではなく、利他が生成する空間・環境について、モノの利他の可能性について、利他学会議を通して考えてみたいと思います。
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ヒュー・デフェランティ
教授、音楽学、日本音楽史
... writes about music, primarily as manifested in “Japan”, past and present, and among the “Japanese” historical diaspora in Australia. At the FHRC this year he has addressed music as a medium for connection and disconnection, communality and solitude. His work with Kyushu biwa singers, investigation of music among interwar Hanshin region ethnic minorities, and group-based research on music-making of diverse minorities in Tokyo as well as prewar emigrants from Japan all point toward the fundamentally "preservational” functions of music as a tool for social cohesion and conviviality, perhaps manifesting or nurturing . Conversely he recognises “anti- ” potentiality in essentialist claims about folk or traditional music and ethnic distinctiveness, and in much music since the Romantic-era framing of composer-authors as inspired creators whose inviolable works speak directly to individual listening subjects.
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木内 久美子
准教授、比較文学
今年度のセンターの活動のひとつだった「モノ利他プロジェクト」、また都市研究会の公開シンポジウムで扱った「都市の自然」といったテーマに共通していた方向性は、利他を人間社会のコンテクストの外部へと接続することだったように思います。利他的な関係性が見いだされることで、人間と事物、人間と自然、有機物と無機物の境界が、分断するものとしてではなく、接続させるものとして立ちあがる。その「見出し」の連続は、私たちと環境との関係を更新させてくれると同時に、人間とは何か、また何に動かされているのか、といった問いへの新たなアプローチを与えてくれるようにも感じています。
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河村 彩
助教、ロシア文化、近現代美術、表象文化論
私は美術やデザインを専門に研究していますが、これらは利他と深いつながりがあるとつくづく感じます。デザインは使う人や制作物を取り巻く環境を第一に考えて行われる行為です。一方芸術制作は、作家の自己表現という利己的行為に見えますが、芸術作品は見る人に心地良さを与え、ときには人生を変えてしまうような強い影響を及ぼします。つまりデザインにも芸術にもそれぞれ異なった利他が存在します。そして両者に共通するのは、必ず受け取る他者がいること、そして物によって利他が媒介されるということです。利他学会議ではみなさんと一緒に身の回りにある多様な利他を具体的に考えてみたいです。
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多久和 理実
講師、科学史
未来の人類研究センターの一員に加わって一年が経ちました。この一年間、将来歴史を構成するような記録を未来に残す活動の利他性について考えてきました。センターの存在自体が「利他が生じる場」そのものであるという二重性に助けられて、センターの提供で新規科目「東工大のキャンパスに親しむ」を開講したり、博物館・資史料館と協働したりする機会を得ました。利他学会議が、成果発表の場であり、かつ、協力してくださった方々への恩返しの場になるといいなと思っています。