Project
水
雲をつかむ話、はじめます。
未来の人類研究センターは、2020年2月に設立されて以来、利他学の拠点として、利他プロジェクトを進めてきました。そして2023年4月からは、利他学をさらに推し進めるために、利他プロジェクトと並行して、新たに「水プロジェクト」を開始することにしました。
私たちが暮らす地球は、ときとして「水の惑星」と呼ばれています。海や川の流れはもちろんのこと、あるときは蒸気として、氷として、あるいは雲となり、雨や雪というかたちで再び大地に降り注ぎ、水という物質がこの惑星全体を循環しつづけています。
また、人間は体の半分以上が水からできていると言われ、水なしには生命活動を維持できない存在でもあります。生活のさまざまな場面が水によって成り立っているのはご存じの通り。地球に棲息する多様な生き物たちも同様です。
そうした貴重な資源である水を確保するために、古来人間は川の近くに村落や都市を造り、治水技術を発展させてきました。他方で、人口増加や気候変動などを原因として、世界の各地で資源としての水の不足が目立ち始めています。水資源の分配や水質汚染などの問題をめぐって「水紛争」も起こり、喫緊の課題となっているところです。
このように水は、自然と社会のあらゆる要素と絡みあう物質であり、利他というテーマとも深いかかわりをもっています。今回の新プロジェクトでは、こうした多様な広がりをもつ水に注目してみます。
とはいえ、どこから手をつけたものでしょうか。あれこれ考えてみた結果、水プロジェクトの初年度は雲をつかんでみることにしました。そう、空に浮かぶあの雲です。
はじめに問いを置いてみます。
もし人が、雲を自在につくったり、動かしたり、水に変えたりできるようになったら、なにが起きるだろう。私たちの社会や自然には、どんな変化が起きるだろう。
雲を制御するという技術はすでに発想されています。ただし、まだ実用・普及できる状態にいたっていない、いわば夢の技術に留まっています。
そこで私たちは、この技術の実現にはなにが必要なのかを考えながら、同時にこの技術が人類や地球にもたらす変化について考えてみることにしました。それは、水について「もしこんな道具があったらどうなるだろう」と「ドラえもん」的な、あるいはSF的な想像力を働かせてみることだと言ってよいでしょう。
また、それは技術のみならず、人や社会や自然に生じる変化について考えてみることでもあります。大学での研究という観点からいえば、自然科学と技術、あるいは社会科学と人文学や諸芸術の交わるところで未来を思考してみることに外なりません。そこでは、「水」や「雲」を中心として、理工学、医歯学、人文社会科学の諸学術の知見を集めて連環させることになるでしょう。
では、こうした未来へ向けた手探り(スペキュラティヴ・デザイン)とでも言うべき試みに、どのように取り組むことができるでしょうか。
いくつかの可能性のなかから、私たちはゲームというメディアの力を試してみることにしました。ゲームとは、ある世界を設定し、ルールに則って、そこで生じうる出来事を、失敗も成功も含めて試行錯誤してみる遊びです。「もしもこんな世界が実現したら、なにが起きるだろう」という模索をするためのツールとして、ゲームを活用してみようというわけです。
そんなわけで、このプロジェクトを通じて、さまざまな分野の専門家の助けを借りながら、そのつど得られた知見をもとにゲームをデザインし、その設計とプレイを通じて考察を深め、洞察を得る。その先に、新たな技術や社会のあり方についての見方や知識が見えてこないだろうか。そんなふうに研究活動のすすめ方も含めて実験と試行錯誤をしてみようと考えています。
雲をつかむための話、どうなりますか、どうぞお楽しみに。
Project Contents
未来の人類研究センターは、2020年2月に設立されて以来、利他学の拠点として、利他プロジェクトを進めてきました。そして2023年4月からは、利他学をさらに推し進めるために、利他プロジェクトと並行して、新たに「水プロジェクト」を開始することにしました。
私たちが暮らす地球は、ときとして「水の惑星」と呼ばれています。海や川の流れはもちろんのこと、あるときは蒸気として、氷として、あるいは雲となり、雨や雪というかたちで再び大地に降り注ぎ、水という物質がこの惑星全体を循環しつづけています。
また、人間は体の半分以上が水からできていると言われ、水なしには生命活動を維持できない存在でもあります。生活のさまざまな場面が水によって成り立っているのはご存じの通り。地球に棲息する多様な生き物たちも同様です。
そうした貴重な資源である水を確保するために、古来人間は川の近くに村落や都市を造り、治水技術を発展させてきました。他方で、人口増加や気候変動などを原因として、世界の各地で資源としての水の不足が目立ち始めています。水資源の分配や水質汚染などの問題をめぐって「水紛争」も起こり、喫緊の課題となっているところです。
このように水は、自然と社会のあらゆる要素と絡みあう物質であり、利他というテーマとも深いかかわりをもっています。今回の新プロジェクトでは、こうした多様な広がりをもつ水に注目してみます。
とはいえ、どこから手をつけたものでしょうか。あれこれ考えてみた結果、水プロジェクトの初年度は雲をつかんでみることにしました。そう、空に浮かぶあの雲です。
はじめに問いを置いてみます。
もし人が、雲を自在につくったり、動かしたり、水に変えたりできるようになったら、なにが起きるだろう。私たちの社会や自然には、どんな変化が起きるだろう。
雲を制御するという技術はすでに発想されています。ただし、まだ実用・普及できる状態にいたっていない、いわば夢の技術に留まっています。
そこで私たちは、この技術の実現にはなにが必要なのかを考えながら、同時にこの技術が人類や地球にもたらす変化について考えてみることにしました。それは、水について「もしこんな道具があったらどうなるだろう」と「ドラえもん」的な、あるいはSF的な想像力を働かせてみることだと言ってよいでしょう。
また、それは技術のみならず、人や社会や自然に生じる変化について考えてみることでもあります。大学での研究という観点からいえば、自然科学と技術、あるいは社会科学と人文学や諸芸術の交わるところで未来を思考してみることに外なりません。そこでは、「水」や「雲」を中心として、理工学、医歯学、人文社会科学の諸学術の知見を集めて連環させることになるでしょう。
では、こうした未来へ向けた手探り(スペキュラティヴ・デザイン)とでも言うべき試みに、どのように取り組むことができるでしょうか。
いくつかの可能性のなかから、私たちはゲームというメディアの力を試してみることにしました。ゲームとは、ある世界を設定し、ルールに則って、そこで生じうる出来事を、失敗も成功も含めて試行錯誤してみる遊びです。「もしもこんな世界が実現したら、なにが起きるだろう」という模索をするためのツールとして、ゲームを活用してみようというわけです。
そんなわけで、このプロジェクトを通じて、さまざまな分野の専門家の助けを借りながら、そのつど得られた知見をもとにゲームをデザインし、その設計とプレイを通じて考察を深め、洞察を得る。その先に、新たな技術や社会のあり方についての見方や知識が見えてこないだろうか。そんなふうに研究活動のすすめ方も含めて実験と試行錯誤をしてみようと考えています。
雲をつかむための話、どうなりますか、どうぞお楽しみに。
©️ Naoki Ishikawa